口臭対策の舌磨きは逆効果?歯科医が教える唾液を戻す正しい治し方
投稿日:2026/08/31
更新日:2026/09/01
人と話しているとき、相手がわずかに顔をそらした気がした。
マスクを外した瞬間、自分の臭いにひやりとした。
一度気になりはじめると、口臭は一日中、頭から離れません。
ところが、ある口臭外来を受診した人の息を測定すると、74%からは口臭が検出されませんでした。
横浜市青葉区で口臭外来を18年続けてきた櫻井直樹さんに、口臭が出るかどうかを決めているものと、よかれと思ってやっているケアの落とし穴を教わってきました。
目次

まず、口臭がどういうものなのかから教わりました。
口臭が強い人と、そうでない人がいるのでしょうか?
櫻井さん:そもそも口臭は、出たり出なかったりを繰り返しているものです。
あの人は出る、この人は出ないという性質のものではありません。
誰にでも出ますし、誰でも出さないようにできる。
そもそも生理現象ですから、病気ではないんですよ。

櫻井さんが口臭外来を始めたきっかけは、開業まもない頃に来院した一人の患者さんでした。
櫻井さん:診療の1時間前に来て、ずっと歯を磨いている方がいました。
そろそろ入ってもらおうと声をかけても、まだ磨いていますと返ってくる。
やっと診療室に座ってからも、口が臭っていてすみません、申し訳ございませんとおっしゃり続けるんです。
ただ、その方には虫歯も歯周病もなく、口臭も測定したところ検出されませんでした。
クリーニングにも治療にも通われていたので、口臭がするわけがないんですよ。
実際に口臭を測定してみて、無い方というのは多いのでしょうか?
櫻井さん:うちで測定したところ、74%は口臭が出ていませんでした。
残りの方も、数値としてはほぼゼロに近い。
自分の口臭を気にしている方ほど、実際には匂っていないんですよ。
測定でゼロなら、口臭がないと言い切れるのでしょうか?
櫻井さん:測定は、その瞬間しか切り取れません。
ですから検査結果がゼロでも、人に感じさせる口臭はないとは言えないんです。
この検査で証明できるのは、口臭が出ないときもある、受診したそのときは口臭が出ていなかった、というところまでですね。
出たり出なかったりするのは、どうしてなのでしょうか?
櫻井さん:それには、唾液が関係しています。
口臭が出るのは、基本的にこの4つのタイミングになります。
・朝起きたとき
・お腹が空いたとき
・疲れたとき
・緊張しているとき
櫻井さん:この4つに共通している原因は「唾液の質と量」が落ちるということなんです。
※これは、誰にでも起こる生理的口臭のことです。
歯周病や虫歯、副鼻腔炎、全身の病気が原因で出る口臭は別の話になります。
タイミングと関係なく強い臭いが続いている、歯ぐきの腫れや痛みがある、といった場合は、まず歯科や耳鼻科で原因を確かめてください。

口臭が出るかどうかは、唾液で決まるのですか?
櫻井さん:はい、唾液の量と質の2つが原因になります。
口の中の細菌は、善玉菌2、日和見菌(ひよりみきん)7、悪玉菌1というバランスで保たれています。
このバランスが崩れるとガスが発生する。
そのガスが口臭の正体です。
そして、バランスを支えているのが唾液ですから、量が減っても質が落ちてもバランスは崩れてしまいます。
逆に唾液が行き渡っていれば、口臭は基本的に止まるんですよ。
実際に来院された方も、唾液が出ていないのでしょうか?
櫻井さん:はい、これが来院される方々の共通点の1つです。
口臭が出ていない74%の方たちも含めて、唾液は全員が出ていませんでした。

唾液の量はわかるのですが、質とは何でしょうか?
櫻井さん:唾液の質というのは、緩衝能力(かんしょうのうりょく)のことです。
口の中を中性に戻す、溶けかけた歯の表面を修復する、有害なものを薄めて無害化する。
唾液には、そうした働きが備わっているんですよ。
唾液の質は、自分で確かめられるものですか?
櫻井さん:唾液の質は、透明なコップなどに入れて見てみると確認できます。
正常な唾液は無色透明です。
白く濁ったものをよく見ると、キラキラした粉のようなものが浮いている。
あれは、粘膜が剥がれ落ちたタンパク質のカスなんですよ。

櫻井さん:粘膜が剥がれ落ちること自体は、新陳代謝として誰にでも起きています。
ただ、唾液で見てわかるほどの量には絶対になりません。
それが目に見えているなら、粘膜がそれだけドサッと落ちているということです。
髪の毛が1本2本なら落ちていても気づかないですが、ばっさり抜けてはじめて真っ黒に見えるのと同じなんですよ。
私の医院で受診した人の統計では、唾液が濁っていた人は89%にのぼりました。
濁ってしまう原因は、どこにあるのでしょうか?
櫻井さん:歯磨き粉です。
多くの歯磨き粉に含まれる界面活性剤は、細菌の膜を壊すと同時に、こちらの粘膜まで壊してしまうんですよ。
ただ、歯磨き粉をやめる必要はありません。
低刺激のものや、界面活性剤を含まないものを選ぶだけで、粘膜へのダメージは変わります。
臭いの出どころは、口の中だけとは限りません。
噛まずに飲み込めば、食べたものに唾液が混ざらないまま胃腸へ落ちていきます。
そこで生まれたガスが呼気に混ざって出てくる、というルートもあります。
櫻井さん:歯周病が口臭の原因だと信じて、ぐらついていた上の前歯を全部抜いた患者さんがいましてね。
それでも、口臭は止まりませんでした。
原因除去は、治療としては正しいのですが、予防ではないんですよ。
やめれば体が元に戻る、それが予防です。
口臭は生理現象ですから、原因を取り除くのではなく、出にくい状態を保つほうが大事になります。

櫻井さん:舌を磨いてはいけません。
舌は粘膜ですから、そもそも磨くものではないんです。
ゴシゴシすれば舌が真っ赤になりますが、それは炎症が起きているということですから、かえって口臭は強く出ます。
舌苔(ぜったい)が口臭の原因だと聞きますが、削らなくていいのでしょうか?
櫻井さん:口臭の原因の7割から9割が舌苔だというのは、学会の見解でもあります。
舌苔はタンパクのカスですから、それはその通りなんですが、削って落ちるのは一時的です。
唾液が戻らないかぎり同じだけたまるので、しばらくすると臭いはまた戻ってきます。
舌には何もしないほうがいいのでしょうか?
櫻井さん:いえ、舌のぬめりはむしろ取ってほしいです。
ぬめっているということは、バイオフィルムという細菌の塊のバリアができているということですから。
こするのは、ぬめりが取れるところまで。
舌苔を削り落とすところまでは行かない、という線引きです。

歯を磨くタイミングは、いつがいいのでしょうか?
櫻井さん:歯磨きは朝起きた直後と夜寝る前が基本です。
ただ、朝は食べる直前におこなうようにしていただきたいです。
朝食の前と後で、何が変わるのでしょうか?
櫻井さん:寝ているあいだは唾液が出なくなるので、細菌を抑えるものがなくなります。
朝起きたときの口の中には、便と同じくらいの数の細菌がいるといわれている。
磨かずに朝食をとるのは、その細菌を食べ物と一緒に飲み込んでいるのと同じことなんですよ。
飲み込まれた細菌は腸内環境を乱し、環境が悪化した腸で発生したガスは呼気に混ざって出てくるので、口の中をきれいにしても口臭が発生してしまいます。
歯磨きと朝食の順番を入れ替えるだけなので、明日からでも試してみてください。

唾液そのものを増やす方法はありますか?
櫻井さん:舌をストレッチして、柔らかくしておいてください。そうすると、だいたい1ヵ月後には唾液の量が倍になります。
具体的には、どんなことをするのでしょうか?
櫻井さん:口を閉じたまま、舌先で歯ぐきの外側をなぞるように、ゆっくり一周させる舌回しのようなトレーニングですね。
それを続けてもらうだけで、全然違ってきますよ。
舌を柔らかくすると唾液が出るのは、どういう仕組みですか?
櫻井さん:舌というのは実は細かく震えていて、その動きが刺激になって唾液が出るので、舌が固まっていると唾液は出ません。
緊張している方は、食いしばって舌がガッと固定されています。
リラックスして舌が解放されると、また唾液が出てきます。
そもそも唾液は、どのくらい出ていれば十分なのでしょうか?
櫻井さん:唾液には、咀嚼して出す刺激唾液と、何もしないで出る安静時唾液があります。
どちらも3ミリリットルくらい出ていれば良い状態です。
安静時唾液が0.5から1ミリリットルしか出ない方などもいらっしゃいますが、トレーニングを続けていけば、唾液は増えていきますよ。

緊張しているときなど、その瞬間に口臭を止めたい場合の対策はありますか?
櫻井さん:ありますよ、次の3つのどれかをおこなってください。
・水分を摂る
・うがいをする
・ガムを噛む
櫻井さん:3つとも、足りない唾液を補い、一時的に口臭を抑えられます。
水とうがいは乾いた口の中を潤し、ガムは咀嚼で唾液そのものを出させます。
口臭が出やすいタイミングである、朝起きたとき、お腹が空いたとき、疲れたとき、緊張しているときに、どれかを差し込むのが基本になります。

年齢によって、口臭は変わるものですか?
櫻井さん:ホルモンのバランスが崩れれば、口臭は強くなります。
40代で口臭が強くなるのは、更年期があるからなんですよ。
同じ理由で、思春期にも口臭は強くなります。
更年期という話が出ましたが、女性のほうが出やすいのでしょうか?
櫻井さん:断定はできませんが、女性には生理があるので、ホルモンバランスが崩れやすいのだと思います。
血が足りなくなることもあって、女性のほうが口臭は上がりやすいのかもしれません。
唾液も血液も、もとは同じ体液ですから。
あわせて読みたい:もしかして私、臭ってる?専門家に訊く更年期の汗とニオイの真実
最後に口臭についてのよくある質問を、櫻井さんに訊いてみました。
A.影響しますが、飲んだあとに口をゆすげば問題ありません。
櫻井さん:口臭が出る三大食品は、牛乳、ヨーグルト、コーヒーです。
これらは酸化しやすいうえ、油ですから、粘膜についたら剥がれません。
ただ、口をゆすげば流せる程度のものですので、すぐ流しておいてください。
A.自分の口臭かどうかは、自分では判断できません。
櫻井さん:臭いを感じるのは、臭いに差があるときです。
差がなければ、臭いには気づけません。
ですから、セルフチェックをしても無駄なんですよ。
鼻と口は体内でつながっていて、口から臭いを判別する嗅神経(きゅうしんけい)までは3センチしかありません。
また、口臭が強い人ほど、まわりの臭いとの差が少なくなるので、自分の臭いはわかりづらくなります。
A.まずは水を飲むか、うがいをしてください。
櫻井さん:口臭を指摘されるときというのは、誰でも青天の霹靂なんです。
言われたタイミングが、口臭の出やすい4つのタイミングのどれかに当たっていた可能性があります。
まずは水やうがいで対処してみると良いと思います。
生理的口臭が出るタイミングは、朝起きたとき、お腹が空いたとき、疲れたとき、緊張しているときの4つ。
4つとも唾液の質と量が落ちる瞬間なので、口臭が出るかどうかは唾液で決まります。
口臭外来を受診した人の74%は、測定で口臭が検出されませんでした。
舌を削るより、朝食の前に歯を磨き、舌回しで唾液を増やし、4つのタイミングで水やガムを使う。
櫻井さんが18年かけて辿り着いた答えは、唾液が出る体に戻すことでした。
次に口臭が気になったら、こする前に、まず水をひと口飲んでみてください。

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